— どうも、字というものは不思議だよ。やさしい字でも、こりゃ変だと思って疑ぐり出すと分らなくなる。この間も「今日」の「今」の字で大変迷った。紙の上へちゃんと書いて見て、じっと眺めていると何だか違った様な気がする。仕舞には見れば見る程「今」らしくなくなって来る 漱石が遺した原稿は誤字だらけであることが知られています。作中、主人公に語らせた体験は、おそらく彼自身のものだったのでしょう。もしも彼が、現代の学校に通っていたなら、漢字が苦手だと言い、作文まで大嫌いになっていたかもしれません。
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