②① (2) 試行錯誤の権利を尊重する 最初の一歩だからこそ、心がけるべきは「その子なりの学びを尊重する」ことです。より具体的にすれば、1つに「その子なりの学びのペースを尊重する」ことであり、これは「試行錯誤の権利を尊重する」と言いかえてもよいでしょう。第2章で紹介した「いつも」の文字を思い出してください。小学高学年になってもあのような字を書いている子はクラスに必ず数人はいます。靴ひもを結ぶのが苦手で、中学3年になって急にしっかりした字を書き始めたCさんのことも思い出してみてください。なおさらのこと、まだ上手に鉛筆を持てなかったり、うまく丸を書けなかったりする子に「きれいに書きなさい」と言ったところで仕方がありません。 よほど手先が器用な子ならともかく、彼ら彼女らのような子どもたちにいきなり書家が書くような文字を見せて「お手本通りに…」といった指導は到底お勧めできません。心がけるべきはその子が今いるところよりも一歩先、プラス1を目標とすることです。「い」と「こ」の混同を防ぐ意味でも、「い」はたて棒2本、「こ」は横線2本と基本をしっかり押さえた上で、スモールステップを踏むことです。 右の図は、やはり小学4年生が書いた「み」をマウスでなぞったものです。最初は正しく入ることができたのですが、途中で反対方向に曲がり(①)、また途中で間違いに気づき(②)正しい方向に戻っています。この子は少し前まで、「み」も左右を完全に反対にして鏡文字を書いていました。そのたびに、 「なんかちがうかなァ?」と言っていたのですが、なかなかこれが直りませんでした。とても穏やかな子でしたが、この日は 「なんだかよけいに変になっちゃった」と、肩を落とし 「ああ、もうやだ。練習なんかしなきゃよかった」と、鉛筆を放り投げました。 ①
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