あいうえお・ABC なぜ どこが むずかしい?どうしたら 読み書きできる?
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「そうかな? いいんじゃない」 「ダメ、ぜんぜんダメ!」と興奮し始めた彼に、私は 「だったら、どうして、ここ(②)でこっちに戻ったの? ここで、『あれっ?』って言ったよねぇ?」とたずねました。 「いやぁ、なんかおかしいと思ったから…」 「そうか。じゃあ、もう一回書いてみたら」と言って鉛筆を差し出すと、彼は 「あれ? ― そうか」と言いながら、どうにか正しい「み」を書きました。 昔の私なら、①の反対に曲がったところで「違うでしょ!」と叱っていたと思います。しかしこの①、②の部分は、子どもたちの学びを象徴しているように思えます。 「最初はきちんと書き始めたけど、いつものくせで反対に行っちゃった。でもそこで間違えたことに気づいて、戻ってきた。自分で、気づいたんだよね。感動の瞬間だね!」と言うと、彼は最初きょとんとし、やがて安心したような顔を見せました。 試行錯誤を重ねるということは、端的に言えば誤りを繰り返すことですが、立場を変えて言えば「気づき」を待つことです。例えば「み」を書く途中で反対方向に曲がったときに、「そっちじゃないでしょ。こっち!」と、手を取ってしまっては元も子もありません。第1章では、清掃用具入れを壊したことさえも捉えようによっては褒めるべき点があることを確認しました。そう考えれば、ここは褒めるべき場面以外の何物でもないと思います。私たち自身、どれだけ間違いや失敗を繰り返してきたことでしょう。それは子どもに限らず、スモールステップを踏みながら試行錯誤を重ねる学びの場面でもあります。これを頭ごなしに否定して、手取り足取り教えるようなことをしては主体的に学ぶ姿勢など養われるはずもありません。

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