(3) 得意を生かす・できることから始める 「その子なりの学びを尊重する」ということは、「その子に合った学び方を尊重する」こと、すなわち「得意を生かす」ことでもあります。「長所を生かすことと短所を補うこととでは、どちらが大切か」と質問を受けることもあります。もちろんそれはバランスの問題です。例えば苦手意識がどれくらい強いか、その子の心理状態や、その日の体調などによっても比率は異なって然るべきですが、基本は「長所を生かすこと」です。その子に合った支援は、「長所活用と短所補強」とのバランスも考慮しながら、その子をよく見て、その子の学びに寄り添いながら模索されてしかるべきものです。 「得意を生かす」と考えれば、例えばカタカナはまず読めれば良しとして、書き練習は後回しにするなども考えられます。「読み書き」からは話がそれますが、これまでに何度となく「九九を覚えないと3年生にはなれない」といったことを、先生が子どもたちにいうのを見たり聞いたりしてきました。たしかに掛け算ができないと、その先の算数の勉強には差し支えがあるかもしれません。しかし「九九」をそらんじることはできなくても、掛け算ができないとは限りません。ある大学教授からは、「数学者で九九ができない人はそう珍しくはない。私もその一人だ」と伺ったことがあります。教授は、「なんで九九を暗記する必要があるんですか? 掛け算ができればいいんでしょ」ともおっしゃっていました。 私が出会った中には「九九」はおろか繰上りのある足し算も怪しいのに、私などには理解できない数学書を読んでいた子もいました。その子は「算数は苦手だけど、数学は好きなんですよ」とも言っていました。これを言うと、「意味が分からない。算数ができなくてどうして高等数学ができるんだ?」という方もいらっしゃるのですが、そんな方は先ほどの八角形を思い出してみてください。人によって、モノの捉え方が異なれば学び方にも違いがあって当然です。ところが多くの大人たちは、「〇〇もできないのに先には進めない」と思い込み、一般に、もしかすると個人的に常識だ
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